2014年4月26日土曜日

ティク・ナット・ハン「私の本当の名前を呼んでください」

ティク・ナット・ハン
『微笑を生きる――<気づき>の瞑想と実践』
PEACE IS EVERY STEP: The Path of Mindfulness in Everyday Life
訳・池田久代
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「私の本当の名前を呼んでください」

私が明日発つと言わないで
なぜって いま 
もうすでにここに着いているから

深く見つめてごらんなさい 
私はいつもここにいる
春の小枝の芽になって
新しい巣で囀りはじめた
まだ翼の生え揃わない小鳥
花のなかにうごめく青虫
そして石のなかに隠れた宝石となって

私はいまでもここにいる
笑ったり泣いたり
恐れたり喜んだりするために
私の心臓の鼓動は生きてあるすべてのものの
生と死を刻んでいる

私は川面で変身するかげろう
そして春になると
かげろうを食べにくる小鳥

私は透きとおった池で嬉しそうに泳ぐ蛙
そして静かに忍び寄り 
蛙をひと飲みにする草蛇

私はウガンダの骨と皮になった子ども
私の脚は細い竹のよう
そして私は武器商人 
ウガンダに武器を売りに行く

私は12歳の少女
小さな船の難民で
海賊に襲われて
海に身を投げた少女
そして私は海賊で
まだよく見ることも
愛することも知らぬ者

私はこの両腕に大いなる力を持つ権力者
そして私は彼の「血の負債」を払うべく
強制収容所でしずかに死んでゆく者

私の喜びは春のよう
とても温かくて
生きとし生けるものの
いのちを花ひらかせる

私の苦しみは涙の川のよう
溢れるように湧いては流れ
四つの海を満たしている

私を本当の名前で呼んでください
すべての叫びとすべての笑い声が
同時にこの耳にとどくように
喜びと悲しみが
ひとつのすがたでこの瞳に映るように

私を本当の名前で呼んでください
私が目ざめ
こころの扉のその奥の

慈悲の扉がひらかれるように

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