2009年6月24日水曜日

ティエブ・ヒエン(Inter-Being=共存)14則 #Thich_Nhat_Hahn

ティク・ナット・ハン
『微笑を生きる――<気づき>の瞑想と実践』
PEACE IS EVERY STEP: The Path of Mindfulness in Everyday Life

訳・池田久代
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1    いかなる教義、理論、イデオロギーに対しても盲目的心酔を避け、また束縛されない。いかなる思想も一手段であって、絶対的真実ではない。
2    現在の知識が絶対不変の真実だとは考えない。狭量を避け、現在のものの見方に縛られない。こころをひらいて他人の考えを受け入れるために、無執着を学び修する。真実は概念化された知識のなかではなく、生活のなかに見いだされる。つねに自己および世界の現実の生活全体をとおして観察し学ぶ。
3    権威、恐喝、金銭、宣伝、教育などのいかなる手段を用いても、自己の考えを他人(子どもを含めて)に強要しない。ただし、他人の盲信、狭量をいさめるときには、まごころを尽くして対話する。
4    この世の悲惨に直面するのを拒んだり、そこから目をそらしたりしない。この世界に現存する苦しみに深く気づき、苦しむ人とともにあるために、面接、訪問、映像や録音などのあらゆる手段を駆使して、苦しみを分かち合う努力をする。このような手段によって、世界の苦しみの現実に自他ともに目覚める。
5    何百万の人が飢えているのに、私的な富を蓄積しない。名誉、利潤、富、肉体的快楽を人生の目的にしない。簡素な暮らしをし、時間、労力、物資を、助けを必要とする人びとと分かち合う。
6    怒りや憎しみをいだきつづけない。怒りや憎しみの種が意識の深層に根づく前に気づいて、すばやく変容させる。怒りや憎しみに気づいたら、すぐに呼吸に戻り、自分の怒りや憎しみの性質や、それを引き起こした人の心境を見きわめ、理解しようと努める。
7    散漫になったり周囲に流されたりして自分を見失わない。気づきの呼吸を行い、いま、ここに戻る。自己の内外の不思議、生気をよみがえらせてくれるもの、癒しの力に触れる。こころに喜びと平和の種を播いて、意識の深層の変容作用を容易ならしめる。
8    不和を生じて共同体の分裂を引き起こす言葉を慎む。どんなに小さないさかいや対立も調停解決する努力を惜しまない。
9    個人的利益や自己顕示欲のために真実でない発言をすることを慎む。分裂や憎悪を引き起こす言葉を使わない。不確かなニュースをひろめたり、確信の持てない事柄を非難、批判したりしない。つねに建設的に真実を語る。自分の身の安全が脅かされても、不正には堂々と勇気を持って立ちむかう。
10   宗教団体を個人的利益のために利用したり、政治集団に変えたりしない。しかし宗教団体は抑圧や不正には断固として立ちむかい、党派間の抗争に関わることなく、状況の改善に努力する。
11   人間や自然に害を加える職業で生計を立てない。人の生存権を脅かす会社組織に投資しない。慈愛を理想とする社会の実現を可能にする職業を選ぶ。
12   みずから殺さず、また人に殺させない。いのちを守り、戦争を避けるための可能な手段はすべて試みる。
13   他人のものをいっさい所有しない。他人の所有物を尊重するが、人が他者を苦しめたり、他の生きものを犠牲にして財を築いたりしないように助言する。
14   自分の体を苦しめないで大切に扱う。自分の体を単なる道具と見なさず、みずからの生命エネルギーを真理実現のために使う。愛と責任のない性愛を慎み、性交渉においては、それによって将来引き起こされるかもしれない苦しみに気づき自覚する。他人の幸福を守るために、他人の権利や約束を尊重する。
この世に新しい生命を送り出す責任を十分に認識し、その子らの住む世界の現実を瞑想する。

2009年6月23日火曜日

生と死を超えて……

死を受容するプロセス

エリザベス・キューブラー=ロス 

生きかたの教師


否認

自分が死ぬはずはないと疑う段階

怒り

なぜ自分が死ななければならないのかと怒りを周囲に向ける段階

取引

死なずにすむように取引を試みる段階

抑鬱

万策尽き、疲れ果て、塞ぎこむ段階

受容

最終的に死を受け入れる段階

生と死を超える道 死に直面した人は、まずそれが事実であることを否認し、無視するが、やがて避けられない現実であることを認識し、運命や自分、周囲の人などへの怒りを感じる。次いで「これからは心を改めますから」「財産はみな慈善に寄付しますから」「せめて息子が卒業するまで」などと神に交渉を持ちかけ、慈悲を乞い、死を回避しようとする。そのうちそれにも疲れはて、ウツ状態に落ち込むが、多くの人はそうしたさまざまな心の葛藤を経たのちに、抗うのをやめ、死を受け容れることで心の平安を取り戻す。この心の軌跡は、死だけでなく、失業、失恋など人生で人が出会うさまざまな逆境にもあてはまる。

「あなたの内なる沈黙に触れることを学ぶように。この人生のすべてのものに目的があり、過ちなく、偶然もなく、すべてのできごとは、学びのための祝福であると知るように」ECR

http://www.ekrfoundation.org/

おまけ――

「人は生まれた瞬間から死に向かって歩みはじめる」ダライ・ラマ

「死は求めなくてもやってくるが、満ち足りた死への道は、自分で探さなければみつからない」ダグ・ハマーショルド

2009年6月21日日曜日

世界の終わりの歌

世界が終わる日
ミツバチはクローバーの周りを飛び
漁師はほのかに光る網をつくろう
幸せなイルカは海上にジャンプ
若いツバメは雨樋をかすめて遊び
ヘビはいつものように金色の肌

世界が終わる日
ご婦人たちは傘さして野原を歩き
飲んだくれは芝生のはずれで眠くなり
街路で
野菜売りは声を張りあげる
黄色い帆の小舟は島に近寄る
バイオリンの調べは空中に余韻となって
星の夜に流れ入る

稲妻と雷鳴を期待した輩たちは
あてが外れる
しるしと大天使のラッパを期待した輩たちは
今の時代にありうるとは信じていない
太陽と月とが天上にあるかぎり
マルハナバチがバラを訪れるかぎり
バラ色の幼児が生れるかぎり
今の時代にありうるとは誰も信じていない

ただ白髪の老人だけが、かつては預言者だったが
忙しすぎて、今は預言者ではなく
トマトを
結束しながら繰り返し言う
世界は終わりに突き当たることはないだろう
世界は終わりに突き当たることはないだろう

―― チェスワフ・ミウォシュ
   Milosz, Czeslaw(1911-2004)

2009年6月18日木曜日

世界はいま

ブッシュの時代には歴史の悪玉がクッキリしていて、ある意味で世界を容易に見透かすことができました。だが、変革と希望の大統領が登場して以来、かえって世界は不透明になったのではないでしょうか? 当ブログでは、折に触れて、世界を確かな目で観るための評論を翻訳・紹介することにします。ゆいま

凡例: (原注) 〔訳注〕 〔日〕=日本語サイト・リンク



トムディスパッチ・コム 抗主流メディア毒・常備薬

トムディスパッチは、911後のわたしたちの世界をより深く理解し、帝国的な地球が現実にどのように動いているかを明確に認識したいと願う万民のためのメディア。当サイト創設者・編集者:トムエンゲハー、執筆陣:リンク、トムあてEメール

原文: 2009614日投稿

トムグラム: Ir-Af-Pak〔イラン・アフガン・パキスタン〕戦争

人狩りを解き放つオバマ

カリスマと帝国大統領

――トム・エンゲルハート

よく見れば、ボー〔日〕でさえ写真映りがよく、カリスマ性がある。彼はカメラ好きの猟犬なのだ。バラク、ミシェル、サーシャマリア〔オバマ夫妻の娘たち〕について言えば――いまの世がファースト・ネーム全盛であることをお忘れなく――彼らはみな、スクリーンで輝いている。

カメラを前に、彼らは間違ったことができない。大統領自身はと言えばさて、あなたが大統領のカイロ演説をまだご覧になっていないなら、ぜひ観るべきだ。この人物はたいしたものだ。彼は多様な聴衆――びっくりするほど広範なアメリカ人だけでなく、アラブ人、ユダヤ人、イスラム教徒、キリスト教徒――に向かって語ることができ、どういうわけか、ほぼ全員が自分好みのなにかを聞き取るようであり、この人物はなんとなく自分の味方であると感じるのだ。しかも、迎合的な感じはない。思慮深い感じ。知的な感じなのだ。

わたしが知る限り――これを検証するには、長く険しい前途が待っているだろうが――バラク・オバマは、フランクリン・デラーノ・ルーズベルト以来とまではいかなくても、少なくともロナルド・レーガン以来で最善の汚れない政治家になるかもしれない。彼には、ルーズベルトと同じ判別しがたい聴く能力があるようであり、(たとえ彼が実際になにをしようとしていようとも)彼は自分と共にいると信じさせるようであり、これは侮れない才能なのだ。

目下のところ、大統領とその一派は、ちょっとした党の乗り換えやいくつかの巧妙な人事によって、最後の共和党穏健派を摘み取っていて、共和党とその保守基盤を、極端な南部の孤立とまではいかなくても、完全な苦境に追いこんでいる。この意味で、彼の最初の最高裁人事は、彼女が判事席でなにをするにしても、輝かしい政治的手腕にいささかも欠けていない。野党が彼女の任命を阻止しようとすれば、(ありえないことだが)「勝つ」にしても、負けるにしても、死活にかかわる票田、ヒスパニックをさらに遠ざけることになる。現在、全票数の9パーセントを占めるヒスパニック票は、前回の選挙で驚くべき35ポイントの差をつけてオバマが獲得したのである。次回選挙では、彼らの重みは完全に赤い〔共和党の指定席〕テキサス州さえも2政党接戦に近い状況に押しやりかねない。言い換えれば、大統領は野党を負けることはあっても勝てない状況に追いこんだのだ。

ルーズベルト、ケネディ、レーガンをミックスすれば――

ごく穏当な歴史文脈で見ても、これはまったく驚くにあたらない。

「ミスター・スポック、赤色物質をください!」――スター・トレック〔宇宙活劇SF〕気分になってあなた自身を2003年初頭に送りこみ、未来はどうなるか、だれでもいいからアメリカ国民にしゃべってみればよい。施設送りのなるのが落ちである。政治合戦場の新しい基準は、レーガンの大衆性、ケネディのカリスマ性、ルーズベルトの才能を兼ね備えた黒人大統領であり、この大統領が民主党が多数派を占める議会を率いて、万民のための医療、地球温暖化解決策、エネルギー保全政策、高速鉄道敷設政策を追求するのだと言ってみればよい。聞いている人は、せいぜいよくて「牧師さま、ラビさま、ペンギンさまが酒場に行く――」とジョークで返すはずだ。

結局、2つの「暴風――イラク侵略とカトリーナ――以前のあの当時にアメリカ国民の世界を混乱させるプロセスが始まったのであり、ブッシュ政権は世界規模でどんどん舞い上がり、共和党は国内で政権よりもさらに舞い上がっていた。あの当時、ネオコンたちは「衝撃と畏怖」流儀の不滅の世界制覇・支配という帝国の夢に我を忘れていた(「だれもがバクダッドに行きたがる。真の男はテヘランに行きたがる」)。また大統領の「軍師」カール・ローブは、いまでこそウォールストリート・ジャーナルの「ご意見番」として窓際族の身をかこっているが、われこそが将来の幾世代にもわたり米国本土のパクス・レパブリカーナ〔共和党支配による平和〕を盤石のものにすると確信していた。

あの時点で、ものごとがまさしくそのように変転することをだれが否定しただろうか? だから、だれにも歴史に意外性はないと言わせてはならない。ミドル・ネームを「フセイン」と称する黒人で、シカゴの――当時、「デモクラティック」と発音するのが面倒なので、共和党員が吐き捨てるように口にしていた蔑称――「デモクラット・パーティ」のリベラル政治家だって? 考えられない。

それにしても、オバマが大統領に就任してから5か月もたたない20096月中旬のいま、あなたは、アフリカ系アメリカ人家族がホワイトハウスの住民になるのはどのようなものだろうか?と人びとが首をかしげていた、あの夜明け前の時代を憶えておられるだろうか。アメリカの有権者はそのようなことを許すだろうか? アメリカ国民はこれを受け容れるだろうか?

もちろんだった。

米国大統領であること

以上を踏まえて、現実を忘れないでおこう。バラク・オバマは選挙に勝って、慈善リサイクル産業、あるいはYMCA、あるいはフォード財団の理事長になったのではない。彼は多くの意味で画期的であるかもしれないが、同時にアメリカ合州国の大統領なのであり、これは彼が、かなりの程度まで現在の戦争と将来の戦争準備を生きる糧とする、地球上随一の軍事大国のトップであることを意味している。

今日、彼は――ブッシュ忠臣派が「大中東圏」と呼び習わしていた北アフリカから中国国境におよぶ地域に限っても――アフリカの角にあるジブチ、バーレーン、オマーン、アラブ首長国連邦、カタール、クウェート、イラク(およびイラク領クルディスタン)、トルコ、アフガニスタン、パキスタン(米軍とCIAがパキスタン軍施設を共用)の諸国内の米軍基地や施設、備蓄軍事物資(またはそのすべて)、それに英国領のインド洋ディエゴガルシア島にある大規模な空軍施設の所有権者である。

これら諸国内の米軍基地の一部はとても小さく、疎遠の地にあるが、ともにイラク国内にあるキャンプ・ヴィクトリーやバラド空軍基地などといった他のものは、埋め込み型の基地群のネットワークを構成する巨大軍事施設となっている。この主題の権威、チャルマーズジョンソンによれば、米軍の海外「用地」(つまり基地)のペンタゴンによる公表数は761であるが、その数には「スパイ基地、イラクとアフガニスタンを含む戦地に設けられたもの、たとえばイスラエル、コソボ、ヨルダンといった――論じるには微妙だと考えられる場所にある、あるいはペンタゴンが独自の理由により除外するとした多種多様な施設」は含まれていない。

バラク・オバマは、1月に大統領執務室に入ったとき、ブッシュ政権が地域指令中枢として帝国的規模でバグダッドに建設した地球上最大の大使館もまた引き継いだ。いまその大使館は、控えめな言いかたによれば、「外交官」1000人を擁している。最近の報道によれば、このようなプロジェクトは、単にブッシュ時代の逸脱行為ではない。オバマ政権は、その新しい戦時大本営、パキスタンのイスラマバードに「大規模な軍事・諜報派遣団」を受け容れると予測される同じように巨大な大使館を建設しようとしている。いつもの超過費用が加算されるなら、これは初の10億ドル規模大使館になるかもしれない。これらの指令中枢のそれぞれが、おそらく大中東圏における米軍駐留の要石になるのだろう。

バラク・オバマはまた、地球の海上交通路を定期的に哨戒する11空母攻撃群の最高司令官でもある。彼は、少なくとも16のいがみ合い、重複しあっている機関からなり、ペンタゴンの大きな影響のもとにあり、しばしばたがいに激しく対立する米国諜報コミュニティ(まさしくこの言葉を諜報要員たちは自身の呼称として好む)のトップの座に座っている。これらの機関は、500億ドル または それ以上ものしだいに膨れあがる内密予算を握っている。(「諜報」という想念そのものに強迫的に夢中になり、16もの大きな別個の組織を維持する意志をもち、そのそれぞれがこのような任務に就き、しかもこれには、諜報活動に従事するさまざまな小規模の官庁が勘定に入っていない、そのような権力を思ってもみよう)

新大統領は、現在、世界の総軍事費のほぼ半分を支出する 国家を統括することになる。彼の2010年度ペンタゴン予算の推計値は、ブッシュ時代の最終年度の驚くべき膨大な額、6640億ドルを少しばかり上回るものになる。(エネルギー省のような部署に紛れこませた軍事費を勘定に入れると、実際の額はこれよりも著しく増大する)

いま彼はワシントンという場所に居住し、そこでは深い思慮なるものは、ブルキングス研究所〔社会・経済問題を研究する民間シンクタンク〕のマイケル・オハンロンのような学者先生によって構成され、この御仁はこのような水増し総額でも、実際には、米軍を「維持する」ためにはあまりにも少ないと泣き言をおっしゃっている(彼の主張によれば、今後10年間にわたり、毎年7.8パーセントの予算増額が適正である)。そこで言う前向きの観点とは、ロバート・ゲイツ国防長官の言う、1つ、2つ、たくさんのアフガニスタンで戦争をする準備に軍事支出を振り向けることなのである。またそこで言う革新的な未来思考とは、DARPA(国防高等研究計画局)の夢想要員を解き放って、「自律プログラム物質」を使う未来のトランスフォーマー型戦争兵器の製造法といった、かっこいい研究をさせることなのだ。

エネルギー、医療、環境科学などの内政分野において何人かの革新的な思想の人たちが任命されたので、オバマ信奉者たちが誇りに思える一方で、2つの決定的な分野で、彼の指名人事は純粋に守旧派のワシントン流儀のものであり、そもそも選挙後最初の政権移行期からそうだったのだ。彼の主要な経済閣僚や顧問らは、おおむね元クリントン陣営要員、またはクリントン要員志願者や子分クラスであり、その一例がティム・ガイトナー財務長官である。彼らは疑いもなく内幕通であり、何人かは現在の破局的な経済状況に直結する1990年代の思考法に責任がある。

外交政策に関しては、11月選挙の結果が逆転して、今日のオバマ政権中枢部はジョン・マケイン上院議員に任命されていてもおかしくなかった。ジェイムス・ジョーンズ国家安全保障担当補佐官は実際のところマケインのお友だちだったし、マケインはなる人物を敬愛していたし、あの選挙戦に辛勝していたならば、民主党に手を伸ばして、ヒラリー・クリントンなる大物を政権最高幹部に迎えてもおかしくなかった。オバマ政権の主だった外交要員や補佐官たちは、集団として国家安全保障政界の旧来からの立役者たちであり、ブッシュ以前期におけるワシントンのアメリカ覇権守護者たちであり、身に染みた方法で世界思考をしているのだ。

人狩り将軍

それにまた、新しい大統領のこととなれば、これらすべてについて受け身にならないように気をつけよう。これらの2分野について、彼はどうやら自信がもてず、一種の政治的保険として自分の周囲に親衛隊を配備したのだろう。それにしても、これはただ彼の身に起こったのではない。彼は大統領職をただ相続したのではない。みずから求めたのだ。彼はただ大統領の椅子に座っているのではない。積極的に大統領権限を用いているのだ。彼は権力を行使している。外交政策に関して言えば、彼は腰が据わっており――彼のカイロ演説、それにイランに対する関係などの課題における変化の兆しにもかかわらず、おおむね予測可能な方向にある。

彼は、たとえば政府の透明性に関して言えば、太陽政策を宣言したかもしれないが、アフガニスタンとパキスタンにおける戦争政策において、彼の帝国的アヴァター〔名代〕はすでに暗くて著しく不透明な死の谷に深く潜入している。彼はスタンリー・A・マックリスタルという将軍をアフガン司令官に任命したばかりである。2003年から08年にかけて、この彼はイラクで(そして後にアフガニスタンで)特別作戦組織を動かしていたが、これは秘密であり、ペンタゴンは言及を避けていた。あの当時、この機関の工作員らは、組織的に仕組まれた大規模な暗殺プログラムの一環として、イラク人を拷問し、暴行し、殺害していた。ヴェトナム戦争時代を記憶している者にとって、これはフェニックス・プログラムのミニ版であり、イラク・アルカイダの類だけでなく、スンニ派反政府勢力やサドル派(それに、情報提供者はいつも自分の個人的な敵に対しても恨みを晴らしたり槍玉にあげたりするものだから、言うまでもなく他の者たち)など、ことによると何百もの敵が暗殺されている。

彼は、アフガニスタンにおける反政府勢力鎮圧作戦に実効性をもたらす(そのおまけに、アフガン住民を「保護」する)人物として、新聞にもてはやされているけれども、彼の実際の持ち場は、「対抗テロ」なのだ。最近の指名承認聴聞会の席で、彼は議会に対して適切な言葉を語ったが、まったく気に留めていない。

アフガニスタンにおける(そして、いつの日かたぶんパキスタンにおける)彼の作戦を遂行するために、彼がいまワシントンで召集している集団を見れば、ほんとうに知る必要のあることが判明する。この集団は、特殊作戦タイプでいっぱいだ。彼の選んだ主要な副官の専門技能は、なによりもまず特殊部隊作戦である。同時に、フォックス・ニュースのローワン・スカーボローによる報道によれば、いま「ただちに」特殊部隊員1000人がアフガニスタンに追加派遣され、現地要員数は合計約5000人になる。これは特殊作戦部隊であり、ドアを蹴破る夜間襲撃や空襲を実行し、この上なく悪名をはせる民間人大量殺戮(さつりく)手を染めてきた者たちであって、これがアフガン人を怒らせつづけるということを心に留めておこう。

ところで、大統領がアフガニスタンに(あの特殊作戦部隊に加えて)21000人の兵力と顧問団を増派し、これまでになく多数の文民外交官や顧問を送り、これまでになく多額の資金を注入している一方で、いま指揮系統の増強も図られていることにも注目しておこう。マックリスタル将軍は、最近のニューヨークタイムズ記事によれば「多数の特殊作戦熟練者を含む部下のドリーム・チームをお手盛りで召集する白紙委任権を与えられ――(彼は)最低限3年間、米国とアフガニスタンとを行き来する仕官・兵員400名の部隊を編成している。単一の戦域におけるこの種の関与は、特殊作戦軍の場合を除いて、今日の軍隊では知られていないが、イランとアフガニスタンにおける秘密奇襲部隊を指揮した5年間の経験があるマックリスタル将軍によって導入されている手法を反映する」

パキスタンにおける新しい巨大大使館と同じく、この人物像は、この惑星の特大軍事国家が戦争を遂行するさいのエリート偏重の様相について非常に多くのことを示唆している――とどのつまり、スパルタ人はテルモピュライ〔ペルシア軍の進撃を阻止したギリシアの古戦場〕でたった300人の戦士を必要としただけだった。

そこで、これがまさしくオバマの戦争、彼の選んだ将軍、暗黒面から現れた人物によって遂行されようとしている戦争なのだ。では、わが陽気な大統領の部下たちから、大中東圏の東部区域にしがみつこうとしている帝国にふさわしいものとして、(本質は純然たるテロそのものであるようだが)いわゆるテロ対策のこれまでになく血なまぐさい秘密軍事行動を思い描いてみよう。

新たな要員らは対ゲリラ戦士ではなく、「マンハター」〔人狩り〕――つい最近に初めてわが国の報道に登場した概念の戦闘員――なのだ。いまオバマ大統領はエスカレートする戦争を統括しているのであり、その戦争では、組織的な暗殺プログラムに従事する「人狩りたち」は地上にいるだけでなく、CIAが進めるロボット航空機による標的照準暗殺プログラムの拡大のおかげで、パキスタン国境地帯の部族領域の上空にもいることをお忘れなく。

記憶をいとわない人にとって、「対ゲリラ作戦」のヴェトナム戦争時代版が同じように帰結したものは、対抗テロ、それに人狩りと暴行と殺害の乱痴気騒ぎだった。

歴史の墓場のなかへ

AfPak(アフガニスタン=パキスタン戦域を表す)は、拡大するアフガン戦争にあわせて造られた新語であり、近ごろ広く使われるようになった。だが、造語をワシントンの人たちに独占させておく手はなく、そこでわたしにも、わが最新の大統領が思いがけなく統括することになるかもしれない、ひとつのありうる新世界をほのめかす造語として、Ir-Af-Pakを提案させていただきたい。勝手ながら、これでイラク=アフガニスタン=パキスタン戦域を表すのである――危険なほどの拡張主義者とわたしたちの時代の退化の可能性をとらえた造語である。

厳しい経済的苦境にある報道機関は、この拡張主義の動向の爆発しやすい性格に気づいていて、(他の機関の前任者たちもそうだが)イラクから逃げているのに、大統領と同じように倍賭けして、アフガニスタンとパキスタンへと一斉に乗りこんでいる。だが、イラクが平和になったとはゆめゆめ考えないこと。イラクは、現実に大中東圏がそうであるように、不安定で危険、一触即発の土地のままである。さらに悪いことに、Af-Pak戦争だけを切り離して、拡大するわけにはいかないかもしれない。それは、他の場所かもしれないが、たとえば中央アジアのスタン諸国にひとつまたはそれ以上の国に浸透するかもしれず、揺れ動くイエメンでは大勝して惨憺たる祝祭になるかもしれない一方で、すでにソマリアには浸透してしまっている。

最後に、アフガニスタンにおけるオバマの部下が編成したあの「ドリーム・チーム」に話を戻そう。ニューヨーク・タイムズによれば、あのスパルタ戦士軍団は最低3年の期限を設けて結成されている。それ自体、特筆ものだ。なんといっても、アフガン戦争は200111月に始まっている。だから、400名のアフガン派遣期間が最短で終わるとき、10年半以上が経過していることになる――が、いまから3年後、戦争がじっさいに終わっているとあえて予言する人はいない。

別の見かたをすれば、言われている年数はたぶん10年であるべきではなく、3年なのだろう。とどのつまり、わが国の対アフガン軍事干渉1980年に始まったのであり、ソヴィエトに対するジハード〔聖戦〕において、いまタリバンと同盟して、アフガニスタンでわが国と戦っている、そのまさしく同じ原理主義勢力のいくつかをわが国は支援していたのである――その昔、まさしくわが国はタリバンを肯定的に見ていたのだ。昔、まさしくわが国は、サダム・フセインを中東におけるイラン・イスラム共和国に対する当面の潜在的防波堤として肯定的に見ていたのだ。(注目に値することに、ひとりイランのみが現在までの数十年間ずっとわが国の地域的な敵の立場のままである)

してみると、流血と戦争の、武力外交と帝国的思いあがりの、(さまざまな原理主義者集団と、今日にいたるまでわが国の同盟者のままである酷薄で権威主義的な中東の政権を含む)悪人に対する支援のなんという記録。濫用された帝国的覇権と浪費された財貨のなんという物語。まことに、ラドヤード・キップリング〔日〕であれば、これについてなにかできるはずである。

わたしとしては、自分がこれら愚行の歳月を畏怖していることに気づいている。アフガニスタンに30年間、これは想像を絶する。あの土地が帝国ゲームの鉄人たちの精神にどんなトリックを仕掛けるのだろうか? たぶんあのケシの花が関係しているのだ。だれが知っているだろうか? わたしはキップリングではないが、この残念な物語がわたしの生涯のほぼ半分を経過していて、いまだに終わりが見えないことに気づいている。

とりあえず、わが新大統領は人狩り部隊を野に放った。彼の人狩り部隊だ。これは、カリスマが歴史の墓場に消え去る分かれ道なのだ。注目していよう。

トム・エンゲルハートは、アメリカ帝国プロジェクトの共同創設者、ネーション研究所度無ディスパッチ・コムの主催者。冷戦およびその後の歴史を扱うThe End of Victory Culture〔日〕、小説The Last Days of Publishing〔日〕の著者。狂気のブッシュ時代の反体制的な歴史書The World According to TomDispatch: America in the New Age of Empire〔日〕(Verso, 2008)の編者。

:造語の作者を明確にしておくと、“Ir-Af-Pak”を実際に考案したのは、ジョナサン・シェルである。それをわたしに譲ってくれたので、彼にささやかな会釈を、そしていくつか直感的な提案をしてくれたジム・ペックにも会釈を。アルフレッド・マッコイはマックリスタル将軍のイラクにおける活動の意味に関して実情を詳しく教えてくれたので、彼にも感謝。なおまた、映画製作者ロバート・グリーンウォルドのウェブサイトRethink Afghanistan〔アフガニスタン再考〕[彼の新しい映画も同タイトル]は、米軍空襲作戦によるアフガン人死傷者のクリップ映像を配信しはじめている。これは、パートごとにオンライン封切りされている彼のアフガン戦争映画のパート4にまとめられる。わたしたちがこのような映像を見ることは滅多にないので、これらの元映像は人を厳粛な思いにさせ、一見の価値がある。映像を観るには、ココ ココ ココをクリック)

〔原文〕Tomgram: The Ir-Af-Pak War 

Copyright 2009 Tom Engelhardt